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122 素朴なお祭り An unembellished festival

こんにちは、答志島のいがちゃんこと五十嵐ちひろです。わたしが住む和具地区では2月21日に神祭が執り行われました。今月に入って、桃取、答志、と続き最後に和具の神祭です。和具は答志島の中で世帯数が最も少なく、また八幡神社も拝殿の無い簡素な作りです。そして、そんな神社で行われる神祭も他の地区とは違った独特の素朴さを持った祭りになっています。

 

答志地区の神祭はこちら神事 演芸

桃取地区の神祭はこちら桃取の神祭

大漁旗と船
めでたいときに船に掲げる大漁旗は「フライ旗」と呼ばれています。

和具でも答志同様、神祭の期間は3日間設けられていますが、実際に祭りを行うのは1日のみです。あとの2日間は漁はお休みですが、イベントごとはありません。

神事の準備

祭りは朝7時過ぎから始まります。まず、漁業組合や町内会の役員さんらが、宮司さんと共に神社で祈祷を行います。そして、弓引き神事で使うお的作りが始まります。お的が作られるのは、神社の敷地内です。ここは、祭りの間は女人禁制となっているため、わたしは近づいて写真を撮ることができませんお的は、竹を割って組んだ物の上に、障子紙と半紙を乗せて、その上に墨で「まるはち」を描きます。描くと言うよりは、乗せる、と言った方が良さそう。墨はフノリという海藻を煮出して作ったノリに消し炭を混ぜて作られるのですが和具の墨はかなり固めで、粘土状の墨をナマコ壁のように盛り上げてまるはちの形にするんです。

お的作りする男性たち
お的作り

答志地区の神祭では、お的作りは神聖なものであるとして、決して関係者以外には見られないようにして行われますが、和具の場合は女性であるわたしがすぐそばを通っても何も言われなかったです。昔の話を聞いてみても、特に人目を避けていたわけでは無いそうなので、昔からの風習のようです。

まるはちを描くための墨
墨を作るのは青年たちの仕事です。

また、神事の後の直会(なおらい)での膳を作るのも準備のうちに入ります。これらは市場の中で行われます。約150世帯に配る膳の用意をするわけですが、9時頃に行ったらそれらはもう出来上がっていて、まかないの牡蠣を焼いたり刺身を作るときに出たアラでブリ大根を作ったりしていました。

炊事番の人たち
市場の中に仮設の炊事場が作られます。

呼び番と呼ばれ番

世古が関係なくなった準備の担当をどのように決めるかというと、どうもそれぞれがやりたい仕事を選んでやっているみたいです。確かに昨年の記憶と照らし合わせてみても、それぞれの準備の面子は変わった様子はありません。各自が得意な場で働くのが最も効率がいいので、上手に機能していると思います。料理人さんは神饌を調理する場にいるし、左官屋さんはお的作りしているし。和具のこういう感じ、わたしは好きです。

ナマコ
直会で出されるナマコ。
お的
お的は神事までの間に天日で乾かす。

それぞれの世古には、毎年宿(やど)の家が決められます。宿は、その年に重要な役に着いている人たちの楽屋みたいなものです。現在では決まりもゆるくなってはいると思いますが、宿の家には結界のしめ縄がはられ、祭りの前の晩から女人禁制になります。呼ばれ番の宿ではお神酒を作ることになっています。

宿の家の玄関
宿の家の玄関。

弓引き神事

弓引きが行われるのは12時30頃です。これは毎年時間が決まっています。というのも、弓引きの時刻は潮が満ち始めた頃合いと定められているのですが、和具の神祭は太陰暦で日付を決めているので、潮が満ち始める時間は毎年同じなのです。日付は太陰暦の1月17日で、その年で初めて大潮と(前夜の)満月の重なる日です。満月と潮の満ち引きには生命に関わる大きなパワーが働いていると信じられていたからでしょう。

大間の浜
神事に参加する男性たちは、神事が始まる前に海で潮をなめて身体を清めます。
お的を持つ男たち
弓引き直前のようす。

和具では禰宜どん(弓の引き手)となった2人が1本ずつ矢を放ちます。そして、2本目の矢がお的に当たると、男たちがお的を奪い合います。たくさん取る人だと、自分のこぶしよりも大きな塊を取って行きます。そして答志地区と同じように家の玄関や納屋、漁船などにまるはちを描きに行くのです。

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まるはちが描かれた漁船
まるはちが描かれた漁船。(よーく見てみて!)

直会

弓引きが終わって1時間くらいすると、神社に再び人が集まってきます。先ほどの弓引きは、女人禁制のため、ほとんどの女性は神社のそばの道で待っており、出てくる男の人たちに墨を分けてもらうのみでしたが、今度は神社の入口近くまできて、この直会を見ます。直会は神事の後に、神聖な場でみんなで食事をすることです。実際には食事は前に並ぶのみで手は付けず、お神酒を順番に飲むのがこの場での直会です。

のぼりと船名旗
祭りの日の八幡神社。
直会の膳の準備をする青年たち
直会の膳の準備をする青年たち。

直会の始まるときになると、シオフリの子どもが現れます。子どもがかわいらしいのと、首にぶら下げる大根で作った男性器が可笑しいのとで、これを楽しみに見に来る人もいます。シオフリの子はお父さんの持つ桶から、束ねた笹の葉を使って潮をまきながら、神社の敷地内に入ります。そして、座っている男性たちにも(嫌がれば嫌がるほど)思いっきり潮をかけて周ります。神社の敷地内に座っているのは、それぞれの家の家長で、喪中の家の人以外がこの場に参加します。

シオフリは大根で作った大きな男性器をぶら下げる
前に大根で作った男性器をぶら下げる。不気味だ。

次に、オリモチという役についた若者がオリを運びます。オリには、直会の為に用意された食べ物や、大根でできた舟の上に海産物を乗せたもの、梅の花などが載っています。オリモチは、お的に向かって3回、神社の本殿に向かって3回、禰宜どんに向かっていいと言われるまで屈伸をします。多分お辞儀だと思うのですが、スクワットみたいなので、面白がって長く続けさせたりします。

お的に向かって3回屈伸するオリモチ
お的に向かって3回屈伸するオリモチ。

直会では、扇に書かれた祝詞を読んだり、決まった順番でお神酒を飲んだり、と既定の手順にそって進んでいくのですが、なんというか終始結構ゆるい空気が流れているんですよね。たぶん、和具の人たちにとって、神事や年中行事は決して特別なものでは無く、生活に溶け込んでいるものだから、いちいち気を張る必要がないんじゃないでしょうか。 

大杯でお神酒を飲む青年
大杯でお神酒を三升ぐらいやる。奥のおじさんたちの笑顔を見て。

最後に神社の周りに集まった女性たちも含めて万歳三唱すると、直会は終了です。この後、女性たちは各家に持ち帰る膳を受け取ると、港にお供えをしに行きます。自分の家の船の前に、あずき飯となます、そして小さく切った刺身を置き、上からお神酒をかけます。お供えの塊が3つあるのは、龍神さん、弁天さん、船神さんの3人の神様にお供えするからです。

船とお供え
船とお供え

21日から23日までの3日間、和具全体はお祭りムードというよりも、お休みモードになります。旅行に出かける人も多いので、神事が終わった後の16時半の船に乗っていった人も多くいました。3日間船に掲げられた大漁旗が降ろされると、また日常が始まります。

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コメント: 2
  • #1

    山下 (火曜日, 26 2月 2019)

    なかなかユニークな祭りの様子の紹介ありがとうございます。厳しい漁師の町のようですが、祭りはいたってゆったりと楽しくやっているのがいいですね。

  • #2

    いがちゃん (木曜日, 07 3月 2019 08:59)

    山下さん
    変わったお祭りなので、昔は多くのカメラマンが写真を撮りに来ていたそうです。今でも大事な部分は変えずに続いています。