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092 親せき増加大作戦 How to get a lot of supporters

以前、答志島は基本分家をしない、という話をしました。しかし、田舎の暮らしには実は親戚って不可欠な存在です。特に冠婚葬祭では人手が必要ですから、声をかけたらすぐに来てくれる親戚というのは、多い方がありがたい。しかし、分家はしないことになっている。

 

分家をしないことについてはこちら離れても島を想う

 

それを解決させるのが、血のつながらない親戚関係を作ることです。血のつながらない親戚ってなんだろう?って思いますよね。ではその例を2つ紹介します。

拾い子

「拾い子」という制度を知っていますか?日本全国にある風習ですが、現代ではあまり聞くことが無いかも知れません。実際わたしは答志島に来てから始めて知ったので、島の文化として紹介しようと思います。

 

答志島では、子どもを拾ってもらう、という習慣があります。「親の厄年に生まれた子」もしくは「同性の子が続いた後に生まれた別の性別の子」は縁起が良くないとされ、厄を逃れるために人の家の子どもにさせるのです。例えば、お父さんが41歳(四十二の厄年)のときに生まれた子とか、お姉ちゃんが2人いて3番目に生まれた男の子とか。

 

そういう子たちは、一度捨てられて、よその家の夫婦に拾ってもらいます。拾ってもらうと言っても、儀式を行うだけで、実際に養育するのは産みの親で、養子縁組のような形式もありません。この儀式が結構おもしろいんです。

 

まず、子どもの親たちが、子どもを家の近くの四つ角に置きに行き、その場を離れます。すると、近くであらかじめ待機していた拾い親が「こんなにかわいい子がおった、うちに連れて帰ろ」と言って、自宅に連れて行きます。自宅へ帰ると、自分たちの買った服に着替えさせます。これで、この子どもはこの家の子になるのです。

子どもを拾いに来た夫婦
子どもを拾いに来た夫婦

拾い子と拾い親の関係は一生続きます。拾い子が子どものうちは、拾い親は誕生日のお祝いやお年玉をあげます。もちろん拾われた子どもの方も親同様に拾ってくれた親を大切にします。周囲の人に拾い親について聞くと「本当に良くしてくれる」「かわいがってもらっている」「いい人に拾ってもらった」というように良い話をたくさん聞くので、拾い親と拾い子、そして実の親は良い関係を築いていることが多いようです。

拾われていく娘を見送るお父さん
拾われていく娘を見送るお父さん

ちょうど先日この儀式を済ませた家庭があったので、写真を提供してもらいました。崇さん、さゆみ姉、ありがとう。

わらじ脱ぎ場

もう一つの方法は、集落外からお嫁に来た人の親元を決めるというものです。外からお嫁に来た人は、結婚後に家庭ののことを相談する相手がいません。そこで、あらかじめ親代わりとなる人を決めておいて、何かあればその人たちに助けを求めるのです。和具ではこれを「わらじ脱ぎ場」と呼ぶそうです。例えば夫と喧嘩したり、お姑さんにいじめられたりしても、島の交通手段は限られていますので、家出して実家に帰るのもままなりません。そんなときの避難先が、この親元になるのです。

 

昔はこの親元というのが本当に大事なものだったので、結婚式の日に「いままでお世話になりました」という挨拶を、実の親では無くこの親に対してしていたそうです。なんだかちょっと切ないですよね。

 

わらじ脱ぎ場となった親元は、お嫁さんの良き相談相手になり、この場合もまた、とてもかわいがってくれることが多いみたいです。また、成人した女性の親に選ばれるというのは名誉なことですし、自分自身の子どもは島の外に出ているということも多いですから、親元に選ばれるのは結構嬉しいみたいです。

最近の傾向

以上に挙げたような方法で、島では限られた人口で多くの親戚を確保してきました。寝屋子制度にしてもそうですが、元々の目的以外にも、やはり親戚を増やすという意味合いがあったはずだとわたしは思っています。

 

このおかげで、島の家系図は3Dで作っても表現しきれるか不安なくらい入り組んでいて「あそこはうちとは親戚」と言われても「そうでしょうね!村の半分は遠縁になるでしょう!!」と苦笑いしそうになるほどですが、そのおかげで集落全体が色々なことを協力してやっていけるのかも知れませんね。 

拾い子
四つ角に置かれた赤ちゃん

ところで最近では、拾い親を叔母にあたる人や、いとこなど、元々の親族に頼むことも増えてきました。本来なら親戚関係の無い人に、祝い事などでお金を使わせるのは悪い、と気を遣っているのが大きな理由です。現代人の一般的な感覚として「親戚関係はめんどう」という意識が島の住民にも浸透している感があります。また、後に示したわらじ脱ぎ場は決めないことも増えてきました。拾い親のように、親族に頼む場合もあるのですが、結局親族は夫側の人間なので、トラブルがあっても全面的に妻の味方をしてくれないんじゃあんまり意味が無いんですよね。笑

 

わたし自身はなんの身寄りも無く島に移住してきていますが、上に挙げたような制度が無くても、親のように面倒見てくれる人がいて、姉のように慕う人たちがいて、弟のようにかわいく思える子たちがいて、姪や甥のように甘やかしたい子たちがいるので、親代わりが無いなら無いなりにやっていけています。でもそれって、やっぱり元々制度としてあったものが根付いているからこそ、無くても成り立つのかなあ、と思います。