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019 おいやれ!おいやれ! Send them!!

答志島では8月のことを盆の月と呼び、いわゆる忌月になります。お盆の期間以外の日でも原則お祝い事は行いません。おそらく島の中に結婚記念日が8月という夫婦はいないでしょう。

ひと月全部を盆とするだけに、8月最後の31日にも盆行事があります。

 

答志でも和具でも31日の盆行事は行われますが、今年は桃取の「おいやれ」を紹介します。

 

和具のお盆の精霊流しについてはこちらご先祖様を乗せて

 

おいやれ

このおいやれは、816日にいったん終わったお盆のときに、あの世に帰りそびれた霊や餓鬼がまだ残っているといけないので、それらを「追いやる」行事です。

桃取では「でっころぼう」という人形を作るのが最大の特徴です。そのでっころぼうを、藁舟に乗せ沖に流します。

 

でっころぼう

なすびのお顔に藁の体。顔の部位もそれぞれ庭や畑で穫れたものを使います。

目玉には「めぐろ」と呼ばれる豆を使っています。この豆は元々芽の部分が黒いので、白目と黒目ができて人形の目にぴったりです。

 

五十嵐作でっころぼう
五十嵐作でっころぼう

着物は半紙で作ります。袖の部分に描かれた丸の中に十文字。桃取の人たちの先祖は平家の落ち人だという伝説があり、これはどうも平家にゆかりのある紋章のようです。着物の下の部分は少し広げ、ひだを描き、袴の形に仕立てます。

 

なすび、ししとう、ケイトウ、さやえんどうの花、めぐろまめ、とうもろこしのひげ
でっころぼうを作るための材料

最後に襷に新米を込めて肩にかけます。昔はここにお賽銭も一緒に入れていたそうです。そして沖に藁舟を流しに行く番の人たちが、襷を取り外し、中のお賽銭を取り出して、帰ってきたらそのお金で一杯やるのが通例になっています。現在では人形の襷をひとつひとつさばくのが手間になるため、藁舟にお賽銭箱を用意し、代わりにそこに入れてもらっています。

 

でっころぼう作り自体はもともと各家庭で行われていたものですが、自力で作れる人が少なくなってきたことから、最近になりみんなで集まって作るようになったようです。みんなで集まってやるとなんでも楽しいので、その意味でもよいことかも知れません。

 

こうしてできたでっころぼうは、霊や餓鬼の依り代となります。一度家に持ち帰り、トイレや風呂も含む各部屋をまわり、そこに残っている霊にはでっころぼうに乗り移ってもらうのです。

 

藁舟作り

でっころぼうを乗せる藁舟は、作り方を示した図面に従って昔から決まった方法で作られます。作るのは「がちばん」と呼ばれる人たち。暮れのどんど焼きから1年間この人たちが村のまつりごと取り仕切ります。雅人と書いてがちと読むそうです。

 

帆には「うないらが 青竹もちて 追いやれと 払う悪魔を のせてゆくなり」と書かれています。「うないら」は「あなたたち」という意味。「答志の『のら』と一緒やな」だそうです。(※第一回答志弁講座で紹介した「のう」に「ら」をつけると複数形になります。)

 

藁舟ができあがると、でっころぼうを乗せる前に藁舟を流しに行く場所を決めます。東西南北と書かれた紙の中から、くじで引き当てられた方角の港から出港することになります。今年は南だったので、定期船乗り場です。

 

くじを引いた「がちばん」向かうは南

藁舟の出発

藁舟やでっころぼうを作るのは午前中に行われ、でっころぼうを藁舟に乗せるのは12時頃ですが、藁舟が出発するのは夕方17時半です。町内会長が口上として帆に書かれているのと同じ言葉を言うと、藁舟は出発します。

 

出発した後はすぐには港へ向かわずに、村の中を練り歩きます。その際がちばんの人たちは、大きな缶をたたきながら「おいやーれ!おいやーれ!」と声を出します。そして周りの人たちは舟やがちばんに向かって水風船を投げつけたり、水をかけたりします。最近では水風船を投げるのはもっぱら子どもたちの仕事。大人に向かって本気で水風船を投げてもいいなんて機会はなかなかないもん、張り切っちゃうよね!!

 

そうして港に着いた藁舟は漁船に乗せられます。一緒に乗っていくがちばんの人たちは、最後の仕返しといわんばかりに子どもたちに向かってホースで水をかけまくっていました。漁船は出航すると、左右に千鳥りながら発進し、港内を何周かぐるぐると回ると海へ出ていきました。

 

港内をまわる漁船

 

お盆の色々な行事に参加してみて気が付いたのですが、みんな大変だ、面倒だ、と言いながらもやっているときは笑顔が多い。お盆って固くて真面目で難しい行事かと思っていたのですが、もっとライトに身近に受け止めてもいいのかな、と感じました。

 

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コメント: 4
  • #1

    山下 直樹 (金曜日, 01 9月 2017 21:38)

    故郷の祭りはなつかいしい
    でっころぼうや藁船づくりの様子を丁寧に取材していただきありがとうございます。最近はコミニティーでみんなで作る機会も多いのですね。子どもたちに作り方を教えていただいたのかな。町内を練り歩いたり、子どもたちが水風船を投げ合うところも面白くとらえていただきました。最後に港から出ていくところは町民そろって見送り、お盆の行事の終わりと新しい季節の始まりを祈りところですね。いろいろと紹介していただきありがとうございました。今後ともよろしくおねがいいたします。(桃取出身者です。)

  • #2

    いがちゃん (土曜日, 02 9月 2017 12:23)

    山下直樹さん
    桃取出身の方に楽しんでいただけたようで感激です。地元の人はなにかにつけて「昔はもっと盛り上がったけど、いまは人口減少で...」と言われますが、形を変えたり、規模を縮小したりしても、本質は変えずに続けていることが、すごいと思います。
    これからも桃取、答志、和具のことを発信していきますので、時々見に来てくださいね。

  • #3

    くえっちゃん (水曜日, 30 8月 2023 05:03)

    桃取のおいやれを検索してみたら…。ありました。会えた。そんな気持ちです。
    16年前、77歳で逝った父が8月30日です。
    父は若い頃、桃取のこの藁船を肩に担いで島の町中を歩いていました。今、そんな、父の背中を思い出しています。きっと、今年も藁船を担ぎに桃取へ行ってるでしようか。
    懐かし子どもの頃の夏の想い出です。ありがとうございました。

  • #4

    いがちゃん (木曜日, 31 8月 2023 14:13)

    くえっちゃんさん
    コメントありがとうございます。懐かしく読んでいただいたとのこと、嬉しいです。
    桃取はいろんな行事を動画に残して公開しています。桃取文化遺産のページもぜひ見ていただきたいです。
    https://momotori-bunka.jp/