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168 色々な神祭 Three different Jinsai festivals

こんにちは、答志島のいがちゃんこと五十嵐ちひろです。毎日毎日風が強くて寒いので、散歩にも行けません。風が強く寒い2月といえば、答志島では「神祭(じんさい)」の時期ですが、コロナのせいでいつも通り開催というわけにはなかなか行かないのが残念なところ。せっかくなので、これまでに見てきた神祭の写真とともに、どんなお祭りなのかを改めて紹介します。

 

神祭は豊作や大漁を祈願する八幡神社のお祭りです。答志島の3集落それぞれで行われます。答志では2月の中旬の土曜日から月曜日、和具では旧暦の1月17日、桃取では2月11日が開催日です。この時期は強風の日が多く、海が荒れるため、あまり漁には出られません。そのため、これから訪れる春の農期や漁期を前に神様に豊作や大漁を祈願するようになったと言われています。

演芸と墨の奪い合い

答志の神祭は土曜日から月曜日までの3日間続きます。神事があるのは2日目ですが、その前後には演芸奉納があります。東京衣装に頼んでばっちりキマった衣装とメイクに、大掛かりなセットなど、マンパワーとお金がかかっています。

扇子を持って踊る女性たち

コロナ禍の直前に開かれた2020年の神祭では、わたしも文化保存会の出し物「白波五人男」として有名な「稲瀬川勢揃いの場」に出演させてもらいました。

せりふを言ういがちゃん

2日目の神事の前には「受け芝居」があり、演目は決まって仮名手本忠臣蔵の3段目です。神事が始まると、途中で幕が降りてしまいますが、この日の夕方に再度はじめから演じられます。

忠臣蔵

メインの神事は「墨の奪い合い」として有名です。墨で紙に描かれた「まるはち」のお的を、男性たちが奪い合うのが見どころです。女人禁制で、お的を奪い合えるのは男性だけです。お的は7人の「お的衆」が、八幡神社近くの浜で組みます。ふのりという海藻と消し炭を使って墨を作り、それで板に乗せた紙の上に「まるはち」を描いて作られるのだそうです。

お的を運ぶお的衆

「墨の奪い合い」で手に入れたお的で、男性たちは家や納屋、船などに「まるはち」の印を描きます。

お的の奪い合い

神事の済んだ3日目も演芸は続きますが、前日までとは明らかに違って緊張が解けた雰囲気になっています。出演者も、青年たちや学校の先生などライトな顔ぶれですしね。でも、トリを務める漁協役員さんたちの演技にはかなり気合が入っていて、クオリティも素晴らしいんです。女性たちは踊り、男性たちは劇を披露します。わたしは演技経験があるのですが、一体どんな指導をすれば素人の人たちがこんな立派な芝居をできるようになるんだろう、とかなり興味があります。

大トリの芝居

こんな派手なお祭りはコロナ禍ではとてもじゃないけどできないですよね。お祭りを見るために帰省する人もいるし、高齢者や同居世帯の多い島では、島に住む人ひとりひとりを守るためには、大事なお祭りでもしない方がいいんですよね。やらない、って判断した人たちをリスペクトしています。

船にまるはちを描く

素朴な村のお祭り

和具の神祭はひとことで表すと「素朴」です。演芸は無いし、観光客が見にきたり、島の外に出て行っている人たちがわざわざ帰ってきたりすることもほとんど無い、村の祭りって感じなので。

和具では旧暦に忠実に日取りが決められているので、平日にやることが多いです。やはり女人禁制なので、祭りの準備から全て男性たちの手で行われます。直会の料理や、神事に必要な小道具を作るのも、「まるはち」が描かれた「お的」を作るのもこの日の午前中にします。

まるはちを描くための墨

答志ほど厳格ではないので、お的を作っているのも結構近くで見ることができます。元々は村全体を2つの組に分けて、毎年交替で呼び番(迎える側)と呼ばれ番(弓でおまとを射る側)を務めることになっているのですが、今は各々の得手不得手に合わせて毎年決まった仕事をやっている感じです。お的のデザインは、その年の呼び番がどちらかによって別の型を使っています。

ナマコを切るおじさんたち

お的を射るのは干潮時刻のすぐ後です。弓を射る役の人が2人いて、1人1回ずつの計2回弓が射られ、2回目が的に当たると的を支えていた男性たちが一斉にお的を奪い合います。ちなみに、絶対に当てられる、っていう距離まで詰めちゃうのも和具らしいところ。お的の墨を持ち帰り、家や納屋、船などにまるはちを描きます。残った墨の塊は神棚にお供えするのですが、昨年コロナ禍で祭りができるかどうか、ってなったときに、災害とかで祭りができなくても、1年前の残りの墨でまたまるはちを描き直せるように墨をお供えして残しておくのかしら?と思ったりしました。全然関係ないかも知れないけど。

お的を持つ男たち

弓引きが済んでしばらく経ってから、今度は直会があります。直会の見どころは、始まる前に場を清めるシオフリの少年です。男性器を模した立派な大根を首からぶら下げて、海水をつけた笹の葉を振り回して場を清めます。

シオフリは大根で作った大きな男性器をぶら下げる
前に大根で作った男性器をぶら下げる。不気味だ。

またお供物を持った青年がスクワットしたり、走ったりして大変そうなんですが、それも見ている人たちにとっては良い余興です。

お供物のオリを持つ青年

終始和やかでユルーイ雰囲気の祭りは午後3時頃には終わります。そして神祭の期間は3日間あり、漁はお休みになるので、多くの人が旅行に出かけます。和具のお祭りには、よく言えばおおらかで柔軟、ともすれば緩い感じもする和具の人たちの人柄が現れています。

正統派の弓引き

桃取の神祭はなんと言っても弓引きがスゴイです。弓の射手は3人の若者たち。的までは20mほどの距離がある上に、高さも10mくらい高い所を、ほぼぶっつけ本番で狙います。

弓を引く

夜明け前から会場準備がされ、明るくなり始めるとすぐに弓引きです。日が昇りきってしまうと、眩しくて的が見えなくなってしまうんだそうです。

お辞儀をする射手たち

桃取の的は「まるはち」ではありません。木の板、紙、紐を使って作られた的はなんだか太陽のようなデザインです。3人の射手によって計18回弓が射られますが、やはり距離と高さのために的に当てるのはとっても難しそうです。2018年の祭りで、ど真ん中に大当たりしてとても盛り上がったのをよく覚えています。ちなみに大当たりした矢は、八幡神社の拝殿に飾られます。

拝殿に保管された矢。

矢をただポンポン射っていくわけではなくて、矢を渡す人の動き、弓を構えるまでの所作が細かく決められていて、その通りに行われるのが神聖な感じがして見ていて気持ちがいいです。観衆が「上手やなー!」などと茶化すのも楽しいんですけどね。

最後にはやはりお的の奪い合いがあります。びっち番と呼ばれる青年が的を降ろし、それを持って町内をぐるりと走り、祭りの場所のほど近い通りに待ち構えていた男性たちがお的を掴み取り合い、家にそのかけらを持ち帰ります。

少子高齢化が進む桃取では、会場準備から弓引きの盛り上げ役までご老人たちが大活躍していたのが印象に残っています。今後今までどおりに祭りができなくなってしまうことを見越して、2018年には神祭だけでなく1年のうちに行われる様々な行事を映像で記録に残しているんですよ。誰でも見ることができるので、ぜひリンクを見てみてくださいね。

桃取文化遺産

漁船と男性

医療が脆弱な離島では、とにかく島にコロナウィルスを持ち込まないことを第一に考えなければならないので、神祭だけでなくて、様々な行事やたのしいイベントができなくなってしまっています。こうやって思い出してみるにつけて、どの祭りも素晴らしいものなので、このままなくなってしまったりしないことを祈るばかりです。

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コメント: 1
  • #1

    ラン (金曜日, 16 2月 2024 16:22)

    これを見に行ったことがあるのですごいなと思いました。