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145 答志版敬老の日 Respect for the aged fishermen

こんにちは、答志島のいがちゃんこと五十嵐ちひろです。わたしが島に来て最初の頃に仲良くなったのはおじいさんやおばあさんたちです。特におじいさんたちは、冬になると集まって火をたいて憩う場所があるので、ときどきお邪魔しては甘酒を貰ったり、昔の話を聞かせてもらったりしています。隠居の気ままな暮らしが羨ましくも思いますが、その分若い頃は休みなく働いていたんだろうな、と思います。

いがちゃんが大間のサロンと呼ぶおじいさんたちの溜まり場の様子
日向に憩うおじいさんたち

答志地区には、そんなおじいさんたちに感謝する行事があります。上掛式(かいかけしき)は神祭の2日目の朝に、まだ演芸の始まっていない舞台の上で開かれます。重要な儀式のため取材はNGだったので、おじいさんたちに聞いた話を元に上掛式の紹介をします。

 

この式には村の中で特に漁業の発展に貢献したおじいさんたちが招待されます。神祭全体の主催者である漁協の管理委員の方たちが、夫婦でそのおじいさんたちをもてなすのです。いわゆる敬老の日にあたる行事ですね。敬老の日が制定されるより前からやっているらしく、「答志の方が進んどるんや」とおじいさんたちは言っておりました。

 

ここではお刺身やお酒でもてなされます。今では誰でも簡単に手に入れて毎晩飲むことができるお酒ですが、昔はとっても貴重なものでした。正月やお祭りのときでしか口にできなかったのです。なので、昔はついつい飲みすぎてしまう人も多かったのだとか。ちなみに色んなお酒が普及した現在も、この儀式でもてなされるのは最初から最後まで日本酒のみ。

だいりょう!だいりょう!

気持ちよくお酒を飲みながら、おじいさんたちはそれぞれの家業の発展を願って「今年はキスがだいりょう!だいりょう(大漁)!」「海苔もだいりょう!だいりょう!」と声をあげるそうです。それに対して周りの人たちは「かーねもーけはーじめた」と歌います。この節は答志に伝わる祝い唄のひとつです。

 

また、管理委員の奥さんがお酌をしに来ると、誰だかわかっていても「わじょどこの嫁や?(あんたはどこの嫁だ?)」と聞きます。女性が答えると、その家がなんの商売をしているかは知っているので「今年はさわらもだいりょうだいりょう!」という具合に声を上げます。奥さん方は、自分の家の商売の発展を願って欲しいので、積極的にお酌をするのだとか。

神祭いまむかし

昔の神祭は、正月に続く大事な行事だったのでたくさんの人が着物で正装をしていたそうです。今も組合や神社の役員や、七人づかいやお的衆などの役に就いた人は着物を着ています。おじいさんたちも上掛式に行くときは現在は背広ですが、昔は着物で参加したのだそうです。

 

女の人たちもみんな着物を着ていたんですって。組合管理委員の奥さん方も、20年ほど前までは着物に割烹着というスタイルでもてなす決まりがあったそうですよ。奉公に出ている娘さんたちも、この日は帰って来て振袖を着ていたというのですから、さぞかし華やかな祭りの日だったのだろうと想像します。一度タイムトリップしてみたい。

お酒を飲むおじいさんたちとお酌をする女性のイラスト
いがちゃんの想像する昔のかいかけしき

そして、すれ違う人たちは「ええごじんじ(御神事)やなあ」と挨拶し合ったのだそうです。「ほんに(本当に)いましは(現在は)ええごじんじやなあ言わんくなったなあ」と残念がる声も聞かれます。確かにわたしもその挨拶は一度も聞いたことがないですね。

 

上掛式は1時間ほどでお開きになりますが、その時間になると家のお嫁さんが迎えに来ることになっています。妻でも息子でも孫でもなく嫁、と決まっているんです。そして「おとうさん、そろそろ帰りましょう」と連れ帰って行くのだそうです。管理委員の方たちはこの後も祭りの大事な仕事が色々とあるので、なるべく早めに迎えに来てもらう方がありがたいみたい。笑

 

現在の上掛式は漁師以外のおじいさんも呼ばれます。敬老の日は敬老の日で町内会が主催して敬老会が開かれますし、お酒を飲めるのも貴重な機会ではありません。それどころか、70代80代でも現役で働いている人も多くいますので、昔のそれとは大きく異なるでしょう。しかし、大切な儀式をこうして今も続けているということがやはり答志島のすごいところかな、と思います。この、大切な儀式を続けなければ、ずっと下の世代にも引き継いでいこう、という意識はどのようにして生まれるのか。分かりそうでまだ分かりません。

 

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