· 

060 わかめ香る町、和具 Wagu, a village smelled of Wakame-seaweed

こんにちは、答志島のいがちゃんこと五十嵐ちひろです。わたしが移住した答志島には3つの集落があり、わたしが住んでいるのは和具という集落です。和具ではほとんどの家がわかめの養殖をしており、春が近づいてくるこの時期、港で見られるわかめ養殖業者の作業がここの風物詩となっています。

港で作業する人々

近年価格が高止まりしているわかめは、和具の人たちにとっての重要な収入源です。わかめの収穫、出荷を行うのは2月から4月のおおよそ3ヶ月間で、それ以外の時期はさわらの一本釣りをしているのですが、このわかめの時期にこの先1年の生活がかかっていると言っても過言ではありません。そのため、この時期はほぼ休みなしでわかめの収穫、加工、出荷作業が行われます。

 

和具ではほとんどのわかめが「塩蔵わかめ」として出荷されます。茹でて塩に漬けて、脱水したわかめは長期保存が可能で「冷凍入れときゃ何年でもいけるやろ」だそうです。

 

この塩蔵わかめがどのようにしてできるのかを紹介したいと思います。

わかめの製造工程

収穫

塩蔵わかめ作りは、わかめの収穫から。収穫は夜明けとともに始まります。養殖のわかめは海中に張られたロープに根を張ってぶら下がった状態です。天然のわかめは岩などに根を張って上を向いて育ちますが、養殖の場合は上下が逆に育ちます。

下を向いて作業するので顔が腫れる人もいるらしい。
下を向いて作業するので顔が腫れる人もいるらしい。

わかめの養殖業者はそれぞれ割り当てられた場所にロープを張ります。このロープを引っ張り上げて、船外機のふちから手をのばし、切っていきます。このときに切るのはよく育っているわかめのみです。まだ育ち切らないわかめは残しておき、後から刈り取ります。養殖の場所によってわかめの育つ早さが変わるため、刈り取りの回数や頻度などは業者によって違います。ちなみにわたしは「刈り取り」と言っていますが、和具ではみんな「切りんく(切りに行く)」と言います。

場所決めのときの様子。海上のどの位置にだれのイカダを置くかが書き表されています。
場所決めのときの様子。海上のどの位置にだれのイカダを置くかが書き表されています。

切り分け

収穫したわかめを陸に上げると、それを各部位に切り分けます。製品になるのは、主にわかめの葉の部分とめかぶです。葉の先の方は汚れがひどかったり、傷みやすかったりで使えないため廃棄します。また、根本に近い茎の部分も基本的に出荷しませんが、作業の手伝いに来た人や、旅館、お土産物屋さんなどをしている人で欲しい人がいれば譲る場合もあります。この部分を煮たり漬けたりして郷土料理ができるんです。

 

わかめの茎・めめちのレシピはこちら⇒めめちをあまじょっぱくつけたもの

陸に上げられたわかめと、わかめをこすったりめかぶを削いだりする人。

海藻は海の中ではいろんな生き物の住処となる為、葉には色んな生き物や植物がくっついています。しかし陸に上がればこれらはゴミ。たわしを使ってこすり取らなければなりません。これが手間だけれど、欠かせない作業です。以前はバケツに汲んだ水をたわしにつけながらこするのがスタンダードでしたが、最近はポンプで汲み上げた海水を流しながら作業する業者も多くあります。画期的。

めかぶは、刃物を使って茎から削ぎ取ります。手慣れた人がやると、スッスッと削げていき簡単そうに見えますが、実際やってみるとコツがいり、難しいです。めかぶを削いで残った茎も廃棄します。

 

これらの作業が大体昼過ぎまで行われます。葉をこすったり、めかぶを削いだり、結構手間がかかるので、人数がどれだけ確保できるかが肝心です。親戚が多いほど有利。そして大体10時くらいに一度おやつ休憩が入ります。おやつ用に注文したたこ焼きは、それぞれの業者が作業している場所まで配達されます。

わかめを茹でる前の釜で、休憩用のコーヒーを温めている人発見(笑)
わかめを茹でる前の釜で、休憩用のコーヒーを温めている人発見(笑)

茹でる

わかめの葉の部分は、港で茹でられます。海からポンプで引いた海水を沸かしてそれで茹でるのです。茹だったわかめは、今度は冷水で冷やされ、カゴに上げてこの後の作業を行う納屋に運ばれます。

人手の多い所は、こする作業を継続しながら茹でる作業が始められる。
人手の多い所は、こする作業を継続しながら茹でる作業が始められる。

塩漬けにする

わかめと塩を攪拌する機械。塩が飛んでくるので前を通るときは注意。
わかめと塩を攪拌する機械。塩が飛んでくるので前を通るときは注意。

ここからの作業は製品の質に大きく関わってきます。まずは茹でて冷やしたわかめに塩を混ぜます。回転するドラムの中にわかめと塩を入れて攪拌します。わかめの量に合わせて適切な量の塩を混ぜることが肝心です。しっかりと塩が混ざったら、水槽の中に入れ、重しをして2日間塩漬けにします。

オーストラリア・シャークベイの塩で漬けます。
オーストラリア・シャークベイの塩で漬けます。

芯抜き

しっかり塩に漬かったら、わかめを葉の部分と茎の部分に分けます。茎と葉の間にちょっと切れ目を入れて、こするような引っ張るような動作で茎と葉に分けます。これもやはりコツのいる作業で、慣れない人がやるとすぐに葉が切れてしまいます。ちなみにわたしは筋がいいらしいです。こういう単純作業を繰り返すの、結構好きなんです。

 

抜いた芯(茎)は重石を使って脱水していきます。一方葉は再び塩漬けにして1日ほど置きます。

わかめのことを記事にするにあたって色々教えてくれた篤さんとかなちゃん。芯抜きの手早さは写真のブレからもわかるでしょう。
わかめのことを記事にするにあたって色々教えてくれた篤さんとかなちゃん。芯抜きの手早さは写真のブレからもわかるでしょう。

脱水

次の日に葉の脱水をします。茎は重石を使った自然脱水ですが、葉はジャッキを使ってぎゅうっと絞ります。一定時間絞ると、塩蔵わかめの完成です。

 

この後「ふるい」という作業で、縮こまったわかめをほぐし、製品にならない小さなわかめや、混入物(最初のこする作業で取り切れなかったちびっちゃいエビとか)を抜きます。これが済むと箱詰めし、答志島産塩蔵わかめとして出荷されます。

 

この一連の作業を少しずつずらしながら、行うのがこの時期のわかめ業者の仕事です。天気を見ながら予定を立てて、時間が無駄にならないように、手が空かないように(裏を返せば休みの日ができないように、ってこと。キツいなあ。)作業を進めていくのです。

作業はこんな感じでノンストップ。
作業はこんな感じでノンストップ。

収穫したばかりのわかめが放つ磯のかおりも、わかめを茹でるホクホクのかおりも、実際にこの時期に答志島を訪れた人にしかあじわえません。わかめの時期は4月いっぱいです。答志島でしかできない体験をしてみませんか?

わかめはうまい。
わかめはうまい。